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New Urban Guerrilla 連載第四回
日本らしいエンタメ・シティを実現する~場から文化が滲み出す街とは?~

2025.12.24
2017年に発足して以来、連載コラム「ヒット習慣予報」で新たな習慣の兆しを発信しているほか、生活者データを活用してさまざまな “ヒット習慣”を研究・分析し、新商品やサービス開発まで行う博報堂「ヒット習慣メーカーズ」。ヒット習慣を探る中で、現代の生活者が癒やしを求めていたり、幸せを模索していたりする兆候が見えてきました。
そんな中ヒット習慣メーカーズのメンバーで新たにスタートする企画が、「New Urban Guerrilla」。都市生活の可能性を探究するさまざまな活動体や官民を巻き込みながら、現代の生活者にとって本当に幸せな、豊かな都市生活とは何かを追求し、社会実装までを目指します。
本連載では、「New Urban Guerrilla」発足を記念し、ヒット習慣メーカーズのメンバーがゲストと共に新しい都市の構想を語り合います。

スピーカー
TBSホールディングス
エンタテインメント・シティ推進部
川鍋 昌彦 氏

博報堂
クリエイティブ局 チームリーダー
エグゼクティブクリエイティブディレクター
ヒット習慣メーカーズ リーダー
中川 悠

博報堂
PR局
統合ディレクター/PRディレクター
ヒット習慣メーカーズ メンバー
村山 駿

東京・赤坂を、多くの人が集まる一大“エンタテインメントの街”へ

中川
生活者にとってより健康的で、より幸せに生きられる魅力的な都市のありかたとは何か。それを検証し、具体的な社会実装につなげるきっかけを探ろうと思って立ち上げたのが「New Urban Guerrilla」です。この連載でも、これまで睡眠や都市緑化など多彩なジャンルのエキスパートの方に登場いただき、さまざまなアイデアを自由に議論しながらそのヒントを探ってきました。

そして今回ゲストに来ていただいたのは、僕ら博報堂と同じ東京・赤坂を拠点にしていて、現在「赤坂エンタテインメント・シティ」という大規模都市開発事業の推進を担当されている、TBSホールディングスの川鍋昌彦さんです。TBSといえば言わずと知れたコンテンツグループ企業ですが、そのTBSでどのようにして川鍋さんが都市開発事業に関わるようになったのか、まずはその経緯から教えていただけますか。

川鍋氏
僕自身は大学で建築を学び、大学院を経てTBSに入社しました。最初の配属先は技術局CG部で、その後宣伝部へと異動。10年程ドラマを中心に宣伝業務に関わっていました。「赤坂エンタテインメント・シティ」構想を上司から聞いたのが2017年で、その後しばらくは社内でも秘密裏に、プロジェクトの下準備をいろいろと進めていました。大学を出てから一度は離れていた建築の世界ですが、こうして都市開発事業に関わることになっているのが不思議な感じもします。

村山
では具体的に「赤坂エンタテインメント・シティ」がどんな内容なのか、教えていただけますか。

川鍋氏
開発テーマは「Shake the World. AKASAKA~あらゆる世界を揺さぶる、エンタテインメントの街へ。」です。その上位概念として、グループとしては「最高の“時”で、明日の世界をつくる」というブランドプロミスを掲げています。僕らエンタテインメント・シティ事業局が担当するのは、博報堂さんも入っている赤坂BizタワーやTBS赤坂ACTシアター、TBS放送センターのある一帯です。現在こちらでは、「PLAZA NEWSSTAND」の誘致や舞台「ハリー・ポッター」の上演、TBSの人気番組に関する催事など、コンテンツIPとの掛け合わせを展開していますが、こうした施策を、新規再開発エリアまで含めてより広範囲に広げていくという考え方です。新規開発エリアにあたる赤坂2丁目と6丁目では現在着々と工事が進められており、2028年には地下鉄赤坂駅と直結する2つのビル、東棟と西棟を竣工、ホールや劇場、オフィス、インキュベーション施設、ラジオ・配信ブース、ホテル、飲食店などが入ります。

計画全体のプロジェクトマネジメントは三菱地所の開発担当が担い、僕らは三菱地所さんと共に建築の大枠から細部に至るまで一緒に協議し、加えてエンタテインメント、ソフト開発部分の検討も重点的に担っています。エリア全体を舞台にさまざまなコンテンツを展開することで、年間1000万人の人が来訪する街にするべく、さまざまな機能を集積させています。

村山
すごいですね。赤坂に出社するのが楽しみになりそうです。

川鍋氏
また現在TBSが保有するTBS IDに、視聴データだけでなく、ショップやチケット、レストランの購買データなども紐づけられるようになれば、たとえば「ハリー・ポッターの劇を見た人はドラマの『日曜劇場』にも興味がある」「ハリー・ポッターも日劇も好きな人は和食を好む傾向がある」といったような分析も可能になります。そのような、データを活用した広告設計を可能にする場にもなっていくことを想定しています。

「祭り」をヒントに、地域とコンテンツの境界を融和させていく

村山
個人的には、施設をつくることが主で、そこに収まるコンテンツを考えることが従になってしまうと、本当の意味でエンタメシティと言えないのではないかなと思ってしまいます。その点、コンテンツの拡張先として街をとらえているTBSさんだからこそ、このプロジェクトは面白くなるだろうなと思っています。

川鍋氏
確かにそうですね。実際に僕らがやっているのは場づくりではありますが、まずはソフトから考えるべきだと思うし、いくら立派な場をつくったからといって、必ずしも人を楽しませ、人を呼ぶことができるとは限りません。また、親子連れから高齢者、若者、ビジネスマンまで、街にはいろんな人がいるのでターゲティングも困難です。演劇に興味がない人、通勤で通りかかるだけの人を含め、あらゆる層がいかに自然にエンタテインメントに触れられるようにするか、常に考えています。またある人にとっては舞台芸能が、ほかの人にとってはグルメやショッピングがエンタテインメントかもしれない。エンタテインメントの概念をどう広げていけるかもポイントだと思っています。

村山
いまは日本のエンタメカルチャーが世界的にも注目されていて、グローバルにおいても追い風が吹いています。赤坂発の日本のコンテンツが世界に発信されるような未来もあり得ますよね。

川鍋氏
そうですね。実際TBSは現在、EDGE(Expand Digital Global Experience)戦略と言って、デジタル、グローバル、エクスペリエンス(リアル体験事業)領域でコンテンツ価値の最大化を目指す拡張戦略を掲げていますから、当然インバウンドの方々も主要ターゲットになっていくと思います。

村山
たとえば京都の街は、歴史的な建物、風景の中で舞妓さんが道を歩いていたりして、それがとても魅力的だったりします。箱モノの外にまでコンテンツが滲み出ていくことで、箱モノと都市の境界線がなくなっていく、そんな街の在り方も大事なんじゃないかと思います。赤坂だからこそできる体験、赤坂の街そのものがエンタメシティと言えるような風景はどうやってつくっていけるでしょうか。

川鍋氏
コンテンツメーカーであるテレビ局が主体であるという点は、最大限活かせるのではないかと思います。たとえば大型音楽特番「音楽の日」は、中継先としてサカス広場を連動させて開催していますが、これを「赤坂音楽祭」などの形に拡張させて、1週間は街全体で音楽を楽しみ、最終日の様子を放送できたら…などのアイデアも出ています。

中川
ものすごく面白いアイデアですよね。
非日常と日常のとらえ方も重要ではないでしょうか。イベントなどで大勢の人が集まり一時的に盛り上がる非日常の楽しさと、普段からそこで過ごす人が日常で楽しめるものというのは、結構違うと思います。地域住民がそのイベントに理解を示しているか、参加するかしないかで、街とエンタメの間に明確な結界ができてしまうんですよね。

そういう意味で、街とのつながり、地域住民との連携については何か取り組まれていたりしますか。

川鍋氏
そうですね。たとえば9月に行われる由緒ある赤坂氷川祭では、企業連合で山車を引くという活動を行っていて、赤坂の昔からの住民や代々商売をしている方々と僕ら企業の勤め人がつながる大事な接点になっています。あるいは秋に行う「オールスター感謝祭」のミニマラソン企画では、過去に市民マラソンと合体させたこともありました。そうした一体感をどんどん生み出し、高めていく必要がありそうです。僕らがやろうとしているエンタテインメント・シティも、そういう賑わいの延長線上に実現できたらいいと思います。

村山
単なるエンタメ施設と、エンタメシティとの違いは、そういう結界、境界をいかに壊せるか、融和させられるかにかかっているような気がします。たとえばニューヨークや下北沢で、舞台の俳優や批評家が一緒にお酒を飲んでいるとか、上演していた舞台の音楽を路上でストリートミュージシャンが演奏しているとか…エンタメが建物の中に収まらず、滲み出していき文化になっている、そういう風景がつくれるといいですよね。

また、エンタメだからこそできる合意形成の在り方が存在するかもしれません。確かにターゲットも大事ですが、違う世代、思想、国籍、価値観を持つ人など、どんな人が来ても同じエンタメを楽しめる場が理想的だとも思います。

川鍋氏
そういう意味では、お祭りに答えがあるような気がしています。老若男女、地元の人は当然、ここで働く人も、旅行者も巻き込んで、交わる場になっていますから。

中川
祭り、あるいはフェスということでとらえると、エンタテインメントを基点に掛け算をしやすいというメリットもありますね。たとえば神保町の古本まつりでは書店が路上に出店したり、カレーグランプリではカレー店巡りを楽しむために大勢の人が訪れます。僕の住んでいる下町エリアでは年に2回ねこまつりをやっていて、かなりの人が集まり、グッズを買ったりイベントに参加したりしています。何らかのテーマと祭りを掛け合わせ、エンタメに仕立てることで、地域全体の賑わいにつながっていく。そういう風景が想像できます。

中川
あと一番いいのは、一ツ木(ひとつぎ)通りを歩行者天国にすることじゃないかなと思いますが、いかがですか。

川鍋氏
それはぜひやりたいですね。実は、一ツ木通り、赤坂通り、赤坂みずじ通り、エスプラナード赤坂通りのエリア全体を歩行者天国にできればとずっと思っていたんです。荷物の搬入などは、どこかにステーションをつくって自動運転で運んでいく。そうすると、そのエリア内の歩道にはいくらでもお店を出していけますし、風景も一変すると思います。

中川
歩道をいかに活用するかというアイデアは海外にもありますよね。規制緩和によって、カフェがテーブルやベンチを出したり、図書館が書棚を設置したりと、それぞれの業態が少しずつ路上にはみ出していく。そういう施策をお店がある程度自由にできるようになれば、盛り上がりが路上に、そして街全体に滲み出ていく感じがつくれそうです。

日本らしいエンタメシティの形は、都市の微細化にあり

村山
ちなみに、海外と日本の街づくりの違いなどは意識されていますか?

川鍋氏
そこは結構悩んだところです。ドバイやサウジアラビアなど、土地を広々と使える場所での都市開発には、規模感では到底かないません。じゃあ日本にいる僕らにできることは何かと考えたら、それはやはり、コンパクトにしていくことなんじゃないかなと思ったんです。なるべく不快じゃない状態でエンタメの密度を濃くし、密集させていく。ウォーカビリティにも関わってくるかと思いますが、都市の微細化のようなことがエンタメ領域できるといいんじゃないかと考えています。

村山
それは確かに、日本らしいエンタメシティの形という感じがしますね。たとえ規模が小さくてもエンタメシティとしての一体化が図れれば、空間に文化やオーラが滲み出し、日本ならでは、赤坂ならではの新しい風景が生まれていきそうです。

それに、テレビという、皆が見てきたコンテンツをつくってきた立場だからこそ、規模の原理ではなく、一緒になってものづくりを楽しむ者同士の意志や共同体みたいなものが機能する場にできるのではないでしょうか。制約があるからこそ、そこで新しく広がる世界や伝えられる体験がある。テレビ番組をつくることと、本質的に似ているような気もします。

中川
僕らも広告をCMで完結させるのではなく、それがいかにSNSなどで拡散し、オンエアしたCM以上の効果が生まれるかを考えますよね。エンタメシティでも、ここで繰り広げられるさまざまなことが街全体に広がり、さらにSNSで外へと拡散していくようなネットワークが生まれていくといいですよね。

村山
そういう空気が、街のオーラ、人格をつくる気がします。僕らもメディア情報上の設計をしますが、空間としての設計においても、統合メディア戦略のようなものが活きる気がします。

川鍋氏
そうしたときに、やはりセレンディピティ、偶然の出会いがリアル空間で生じていけば素敵だなと思っています。一ツ木通りがあるあたりは、一説によると江戸時代以前は人馬を継ぐ宿場があったことから人(ひと)継(つぎ)村と呼ばれていたそうです。(※)昔から多くの旅人が行き交ってきた歴史を持つというストーリーも合わせて、偶然の出会いを生み出していくエンタテインメント・シティとしての赤坂をつくっていけたら嬉しいですね。

中川
すごくいい話ですね。
もし歩行者天国ができて、TBSさんが年に何度か大々的なイベントを開催するとして、その合間の期間は、「ブックフェスやろう」とか「イベントやろう」とか、住民の方が自発的に、好き好きに間を埋める動きが生まれるといいですよね。そうして、「週末あそこに行けば、きっと何か楽しいことをやっている」と思ってもらえる街になっていけば最高ですね。

村山
大規模である必要はないんですよね。そこに行けば自分も祭りに参加できるし、祭りのコンテンツを提供できるかもしれないと思えるような…そんな空気が醸成できたら、活力のある魅力的な空間にできそうです。

話は尽きませんが、すごく勉強になりました。

中川
面白いヒントをたくさんいただけました。

川鍋氏
こちらこそありがとうございました。

※参考
港区ホームページ 写真今昔物語第38話 赤坂一ツ木通り商店街振興組合理事長
藤貫康博さんインタビューより
https://www.city.minato.tokyo.jp/kouhou/kuse/koho/konjaku/konjyaku38.html

川鍋 昌彦氏
TBSホールディングス
エンタテインメント・シティ推進部

2003年入社。技術局CG部に配属後、2006年から1年間渡米。2012年から宣伝部で主にドラマの宣伝担当、2021年から総合プロモーションセンターにてコーポレート・ブランディングを担当。2023年からエンタテインメント・シティ推進部所属。

中川 悠
博報堂 クリエイティブ局チームリーダー
ヒット習慣メーカーズ リーダー
エグゼクティブクリエイティブディレクター

メーカーの商品開発職を経て、2008年に博報堂中途入社。エグゼクティブクリエイティブディレクターとして、日々お得意先や社会の課題に向き合っている。最近年をとったせいか、もっと自然体で、自然と共に生きていきたいと思うようになり、都市生活に新たな余白を生み出していく「New Urban Guerrilla」という取り組みをはじめた。同じ想いを持ったいろんな人たちとご一緒したいです!

村山 駿
博報堂 PR局
PRディレクター/統合ディレクター
ヒット習慣メーカーズ メンバー

PR戦略局から、19年に統合プラニング局に異動、21年にふたたびPR局に異動。社会発想を軸にした統合コミュニケーション、情報戦略に携わる。毎日きまった街のきまった飲み屋に入り浸っていた生活を経て、知らない街の知らない店に飲みに行きたいなとリサーチ活動を実施中。

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