
博報堂SXプロフェッショナルズ(旧 博報堂SDGsプロジェクト)とは?

SDGsアイコンの日本語版コピー開発をはじめとする国連及び関連団体のコミュニケーションサポートから、企業や研究機関とのサステナブル事業開発まで。国内外の多様な事例やトレンドに精通したサステナビリティのプロフェッショナル集団。2019年発足のプロジェクト「博報堂SDGsプロジェクト」を前身とし、確かな戦略からインパクトのあるアウトプットの実装までお手伝いします。企業の経済インパクトと社会的インパクトの統合に資するソリューション開発や経営支援、事業開発支援、マーケティング支援などを行い、これからの持続可能な社会を支える次世代ビジネスモデルの創造に貢献していきます。
井口:まずはSX(サステナビリティ・トランスフォーメーション。以下SX)の現在地や課題について話していきたいと思いますが、いまSXにまつわる相談は増えていますか?
牧:「SDGsへの貢献を発信したい」という相談はひと段落して、すでに通常の企業活動のなかに脱炭素や生物多様性、人権対応といったSDGsの要素が織り込まれていると感じています。
小田部:投資家の目線もあり、いまやサステナビリティなしに企業の価値創造ストーリーは描けなくなっていますよね。「SDGsに取り組んでいますよ」というアピールはひと通り終わったものの思うように成果が出ず、「次の一手をどうするか」に悩んでいる企業が多い印象ですね。
井口:いきなり話が行き詰まりそうですが(笑)、そんな今、我々の存在はどう役立てることができるでしょうか?
牧:少し前までは、企業として昔から取り組んでいたことをSDGs目線で語り直すというケースが多かったんです。でもいまは、「何年以内にカーボンニュートラルを実現しなければ、あるいは100%再エネに切り替えなければ顧客を失う可能性がある」と突きつけられるような「待ったなし」の状態。そうなると自社だけでは到底実現することはできないので、取引先の協力も、生活者の協力も必要になります。みんなで協力していい未来を目指しましょうという呼びかけのためには、やはりコミュニケーションの力が必要になります。

井口:それは生活者に向けたコミュニケーションだけでなく、取引先を含めたコミュニティに対する働きかけも、ということですよね。
小田部:そうですね。もっと言えば、企業のなかでもコミュニケーションが必要になっていると思います。いわゆる「稼ぐ部署」と「サステナビリティを担当する部署」はこれまで別々に機能していた。でもそれを横串で捉えて統合する思考が必要になっています。長期的な企業価値を高めるためのサステナビリティ関連の部署と、短期的な成果を目指す事業部との連携でいかに相乗効果を生み出すか。社内コミュニケーションのためにも僕らのスキルが発揮できると思います。
牧:企業の方に話を伺うと、社内でもサステナ関連部署と事業部と工場が連携したり、社外の取引先や時には競合企業とも連携しながら、素晴らしい取り組みをされている例もたくさんあるんです。そういった、良い取り組みは生活者にしっかり伝えて、応援してもらい、さらに大きな輪にしていくこともやはり大事だと思います。
小田部:サステナビリティについて様々な取り組みをしているのに、予算がなくて十分にコミュニケーションが出来ていない企業が多いなかで、「ちゃんと伝えれば、ちゃんと伝わる」というのを証明してくれたのが今回の大阪・関西万博だったんじゃないかなと思うんです。「いのち輝く未来社会のデザイン」というのはSDGsに通じるテーマですよね。
ある調査では、今回の万博に出展した企業群の「サステナブルな取り組みをしている企業である」というイメージが上昇したという結果が出ていました。これは正直、衝撃的な結果でした。なぜなら、企業イメージってなかなか上がりづらいんです。でも、ちゃんと伝えれば伝わるし、おもしろがってもらえる!ということに、すごく希望を持てた出来事でした。

牧:万博に来るお客さんは、いわゆる意識高い系ではない普通の方々。専門知識のない一般の生活者にしっかり伝わることが証明されたわけですね。
井口:シンプルに「伝えることに価値がある」ということですね。
小田部:いまはサステナ疲れなんて言われたりしますが、みんな関心がなくなっているわけではない。閉塞感や漠然とした不安感を抱えるなかで、ひとつの突破口として期待されているんじゃないかと思うんです。その象徴のひとつが、サストモ*の登録者数なのではと思います。
*サストモ・・・未来に関心を持つ人へ、サステナビリティに関するニュースやアイデアを届けるLINEヤフーのプロジェクト。

小杉:サストモには、現在540万以上の登録者がいます(2025年9月時点)。最近オープンチャットもはじめたのですが、一般ユーザーが自分の関心のある環境テーマについてかなり活発に議論しているんです。私はメディア開発担当として、サストモとの連携などもしていますが、サステナビリティ領域におけるサストモの存在感は大きいと感じています。
先ほどの万博の話で言うと、企業の万博施策のPR動画のコメントでも「万博で日本企業のすごさを知った」とか、「もっと企業活動について教えてほしい」といった声も多く上がっていて、みなさん情報を求めているんだというのを感じます。企業側には「発信しても聞いてもらえないんじゃないか」とおっしゃる方もいますが、そのようなお悩みがある場合は、企業が発信したい情報を生活者が知りたいコンテンツに編集することが得意なメディアと一緒にコンテンツを作っていくことも良いと思います。
井口:みんながCMを見る時代ではなくなった今、万博やスポーツの世界大会のようなビッグコンテンツの価値は高まっているのかもしれないですね。企業の本気や熱意は、ちゃんと伝えれば伝わる。でも同時に、企業ごとに評価の「差」も生まれてきている気がするのですがいかがでしょうか?
小杉:やはり、自分たちの事業とサステナビリティがきちんと結びついているかが重要になっていると感じます。そこのマッチングがうまくいかないと、結果事業部とつながらずに予算もないという悪循環に陥って悩まれている方も多い印象です。

井口:でも、もともと企業は社会のために存在しているから、本業とSDGsが一致しないというのは本来的にはありえないことだと思うのですが、いかがですか?
小杉:縦割りと評価制度の弊害があるのかもしれません。CSRの部署は企業ブランドイメージアップのためにどうアクションしたかが評価につながり、一方の事業部は売り上げが評価されることが多い。本当は社会のためにある企業という共通のビジョンがあるはずなのに、そのせいで分断が生まれているのではないでしょうか。
牧:社会自体の価値観の変化もありますよね。たとえば、創業した当時は「使い捨てが便利」という時代だったとしても、いまは「プラゴミを減らしたい」という社会になっている。そういう意味でも生活者に合わせたトランスフォーメーションが必要になっていると感じます。生活者のニーズ、もっと言えば「欲望」を汲み取ったうえでのサステナビリティであることに意味があるし、その視点では我々の生活者発想が役に立つのではないでしょうか。
井口:時代の変化のなかで生活者のニーズを捉え続けることが必要だし、やはりコミュニケーションに価値があるというのがみなさんの実感ということですね。そのほかに、僕らがSXのプロフェッショナルと名乗るだけの強みはどこにあると感じますか?

小田部:サスティナビリティにはさまざまな専門性が必要となってくるので、専門家とのネットワークを持ちながら「つなげる」役割も重要だと思いますね。知らない人と知り合って、新しい話を聞くって、楽しいし、未来の景色が変わるじゃないですか。
小杉:たとえば最先端の知見を持つリサイクラー企業やNPO、国連関連の方などを呼んでセミナーを開催することがあるのですが、そのときただ専門家を紹介するのではなく、クリエイティブの視点を入れて我々が一緒に議論することが大事だと思います。生活者発想でこれまでなかった視点を提示すること、わかりやすく言うと「面白い!」と思ってもらえることに価値を感じていただけています。
小田部:やっぱりファシリテーションの力が重要なんですよね。ワークショップに行っても、クリエイティビティを引き出し切れず、予定調和で進んでしまうものには物足りなさを感じます。
牧:博報堂の人は「広げる力」がありますよね。広げて、ちゃんとまとめる力がある。最終的に形にできるというのが私たちの強みなのではないでしょうか。
井口:そこがコンサルティング会社との違いかもしれないですね。いまってどうしても、すぐに答えを出さなければいけないような風潮があるけど、答えよりも新たな出発点をつくることが大事。僕は今回の万博でシグネチャーパビリオンのひとつ、「Dialogue Theater – いのちのあかし –」のクリエイティブディレクションを担当したのですが、名称の通り、そこは「対話」がテーマのパビリオンで、答えの優劣を競うディベートではなく、お互いの気持ちを持ち寄って、本音で話して積み重ねていきます。そうすると答えは出なくても、新しい出発点がうまれます。企業のワークショップでも、みんなが言いたい放題で、多少とっ散らかっているくらいの方が、その先が面白くなったりしますよね。

小田部:博報堂がずっと掲げている「生活者発想」って、人の話を聞くことが基本。そこからヒントを見出そうというアプローチだから、僕らの聞く力というのが役に立つのかもしれませんね。人の話を聞いて、出発点となる問いを投げかける。それが僕らのファシリテーション力なのではないでしょうか。たとえ答えが出なくても、問いを持ち帰ることで一人ひとりのなかで何かがはじまっていく。それがSXの第一歩になるはずなんですよね。

井口:だんだんワクワクする感じになってきました。(笑)サステナビリティというと、まず「環境」というテーマが思い浮かぶ人も多いと思いますが、会社の利益や社員の生活もあわせて持続可能であることを指す言葉だから、今後はその意識を育てていくことも大事ですよね。

小田部:社会価値と経済価値のダブルインパクトといいながら、どうしても社会価値が優先されて考えられていますよね。事業とサステナビリティを統合するためには、社内の統合も生活者との統合も必要になる。「統合」というのがこれからのひとつのキーワードになってくるし、それはみんなの「やりたい」をつないでいくということだと思います。
井口:なるほど。コミュニケーションだけでなく、統合の部分にも僕たちの働きどころがあって、そこにも欲望が絡んでくるということですね。
小田部:そうですね。「そもそもうちの会社や自分は、何をしたいんだっけ?」という本業に近いところでどうサステナブルに取り組むかというのを一緒に考えるところからスタートして、まずは社内の人たちを巻き込む。さらにその活動を大きくするために他の企業やNPOなど他者とのつながりも広げていく。生活者発想とネットワークを持って、内側と外側を統合することに、僕らが一役買えるんじゃないかなと思います。
井口:僕らがいろんな欲望のハブとなってSXを推進していくことも大事だし、僕ら自身がもっと主体的に発信していくことも大事ということですね。
そしたら次回からは、SXPのメンバーにどんな課題意識があって、どんな解決策や専門性を提供したいと思っているのか、つまりこのテーマにおけるひとりひとりの欲望を紐解いていきましょうか。

SDGs17Goalsの日本語版コピー開発をはじめ、広告制作はもちろん、パーパス策定や新規事業開発、イベント・ワークショップ・研修プログラムの設計、TV番組の構成・脚本、絵本執筆等、言葉を軸に幅広いアウトプットを手がける。最近の仕事に、人気漫画61作品が出版社の枠を超えて登場するABJ/STOP!海賊版「ありがとう、君の漫画愛。」キャンペーン、国内160以上のメディアを巻き込むSDGメディア・コンパクト「1.5℃の約束」気候変動キャンペーン、東京地下鉄「Find myTokyo.」キャンペーンおよび共同事業「Find my Tokyo. BOX!」など、話題化や事業化によるソーシャルイシューの解決に取り組む。 東京コピーライターズクラブ会員 / 博報堂SXプロフェッショナルズ メンバー/大阪・関西万博シグネチャーパビリオン「Dialogue Theater - いのちのあかし -」クリエイティブディレクター / ビヨンドSDGs官民会議理事

2019年~博報堂SXプロフェッショナルズ(旧SDGsプロジェクト)メンバー。「企業の持続可能な発展=長期的なブランド価値向上」を目指し、 社会価値視点で事業を構想する 「ソーシャルインパクト事業構想プログラム」や、SDGs総合支援メニュー「SDGsコーポレート」を体系化しリリース。 他、メディア連携企画として「朝日新聞脱炭素企画」や、国連主導で全国108のメディア共同による「気候危機キャンペーン」に参画。 2025年4月より、SXプロフェッショナルズ共同代表。

2004年博報堂入社。マーケティング局、エンゲージメントビジネスユニット、HAKUHODO THE DAY を経て、2016年より現職。 国内クライアントを中心に、戦略からエグゼキューション、トータルなコミュニケーションデザインを行う。生活者をパートナーと捉えた、創発型プランニングを好む。また、自身もNPO運営をしており、サステナビリティ・トランスフォーメーション(SX)業務を積極推進中。 2025年4月より、SXプロフェッショナルズ共同代表。

制作プロダクションを経て、2011年に博報堂D Yグループに参画。地域/文化/社会課題をテーマに、コミュニケーションのプランニングやメディア開発に携わる。現在は、博報堂グループの横断組織「博報堂SXプロフェッショナルズ」にて、サステナビリティを推進するプロジェクトを担当。楽しくポジティブに参加できるリジェネラティブな社会づくりを模索中
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